ダルビッシュ、復活へのキーワードは”焦らずゆっくり” 明暗わけたトミー・ジョン手術後の2事例

トミー・ジョン手術は、何も投手だけのものではない

 右肘じん帯の再建手術(通称トミー・ジョン手術)を受けたレンジャーズ・ダルビッシュ有が、手術から3日後の17日に、キャンプ地のアリゾナ州プライズに戻りリハビリを開始した。

 自身のブログでは「しばらくはほとんど何も出来ないですが、焦らずゆっくりリハビリをしていきます」と報告している。
 焦らずゆっくり――。自ら記したこの言葉こそが復活への大事なキーワードとなる。

 それを実証する明らかなケースが、スプリングトレーニングで見られた。
 オリオールズの正捕手マット・ウィータースが右肘の不安のため、開幕をDL(故障者リスト)で迎えることが濃厚となった。トミー・ジョン手術は、何も投手だけのものではない。ウィータースは昨年6月にトミー・ジョン手術を受けていた。

 オープン戦が始まっても、首脳陣は指名打者で起用。紅白戦でマスクを被らせた試合では、盗塁させない特別ルールを採用した。患部を気遣い調整してきたが、ウィータースはキャンプ初日から「開幕戦では間違いなく捕手で出場できる」と自信満々だった。その様子は、復帰を焦るようにも映った。
 手術からは、まだ9カ月。迎えた3月17日のツインズ戦。ウィータースはオープン戦に初めて捕手として出場。ホームプレート前のボテボテのゴロを処理し、一塁で間一髪アウトにする場面があった。その4日後、バック・ショーウォルター監督は無期限で、張りを訴えた右肘の回復を待つという。

 トミー・ジョン手術は一般に、復帰まで12~16カ月と言われている。そして、その復帰に要する期間が長いほど、復帰後のパフォーマンスが高くなる傾向がある。

復帰に「待った」をかけたハービー

 対照的に、周囲をうならせる剛球を披露しているのが、メッツのマット・ハービーだ。最速100マイル(161Km)を計時したこともある25歳は、13年10月にトミー・ジョン手術を受けた。

 昨季終盤、ハービーはすでにメジャー復帰を狙える状態まで回復していた。だが、首脳陣は復帰に待ったをかけた。チームはプレーオフ進出争いから脱落していた。手術から間もなく1年となる右腕の復帰を、焦る必要はなかったからだ。

 ここまでのところ、この「待った」は功を奏している。オープン戦4度目の登板となった22日のヤンキース戦では、5回2/3を2安打無失点とほぼ完璧に封じ込めた。今春は計14回1/3を投げ11安打2失点、12奪三振で、防御率1.26。試合では何度も98マイル(158Km)をマークし、手術前に勝るとも劣らない球威をみせている。

 ハービーのケースは、手術時期とチームの成績が、リハビリに大きく寄与した。仮にチームが優勝争いの佳境にいれば、若きエースの復帰を急いでいたかもしれない。首脳陣の割り切りも手伝い、ここまでのプロセスは順調そのものだ。

 明暗分けている2人のマットが示したテストケース。ダルビッシュは手術を行うことを表明した会見では「人と自分は違うと思っているので、自分は自分なりに新しいアプローチの仕方をしようと思っている」と話したが、やはり先人の経験談には耳を傾けるべきだろう。

 そうでなくても、レンジャーズにはトミー・ジョン手術の経験者が多数いる。藤川球児はもちろん、昨年はマーティン・ペレスとペドロ・フィゲロアの2人が夏前にメスを入れた。守護神のネフタリ・フェリスは12年8月に同手術を受け、術後2年が経過した昨夏に完全復活を遂げている。

 リハビリの経過具合によっては、復帰が来季中盤以降にずれ込む可能性も十分ある。それでも、焦りは禁物。投手という生き物にとって、投げられない苦しみは想像を絶するものだろう。そこをどれだけ我慢できるか。ダルビッシュの忍耐力が試される