「お金が貯まる人」と「なくなる人」の違い



「長財布を使うとお金が貯まる」とか、「財布のなかでお札を同じ向きに揃えるとお金が貯まる」とか、テレビやネットでは「お金が貯まる習慣」がさかんに取り上げられています。しかし『お金が「貯まる人」と「なくなる人」の習慣』(山崎俊輔著、明日香出版社)の著者は、ファイナンシャルプランナーという立場上、それらに違和感をおぼえるそうです。

なぜならそうした行動が、「貯まる人」になる理由とセットになっていないから。そしてお金を貯めるために「努力」や「ガマン」や「才能」が必要だというわけではなく、ほとんどの問題は「発想の転換」と「自動化」によって解決するから。むしろ重要なのは、発想や行動の転換につながる「習慣」を示すこと。根拠のある「お金の貯まる習慣」さえ実行できれば、誰でも「お金がなくなる人」から「貯まる人」に変われるということです。

そのような考え方に基づき、本書では50の「お金が貯まる習慣」が紹介されています。しかも難解ではなく、誰でも実行できるものばかり。習慣を身につけることができれば、効果が確実に現れるといいます。2章「お金が貯まる思考回路編」から、いくつかを引き出してみましょう。

自分との向き合い方

「お金が貯まる人」は、「自分は普通の人間だ」と考えるもの。一方、「なくなる人」は根拠のない自信を持つもの。著者はそういいます。少なくともお金に関していえるのは、「自分にはお金のセンスがある」と思っている人の大半は「なくなる人」だということ。そうしたスタンスは投資で失敗する可能性を高めるばかりで、戒めが必要だと説いています。

そして投資に限らず、自信過剰な人は、自信があるからこそ将来の備えを怠りがち。逆に、自信過剰に陥らないからこそ、いますべきことにコツコツと取り組むのが「貯まる人」。道徳の話のようでもありますが、自分の能力について冷静かつ客観的に評価することはとても大切。そこで、謙虚さが問われるということです。

そして、「ほとんどの人は『普通の人』」だということに気づくべきだとも訴えています。仕事においても過程においてもスーパーマンだというわけではなく、だからこそ資産形成においてもスーパーマン幻想から抜け出す必要があるということ。


「ある日いきなり何千万円も稼ぐビジネスマンになる」ということもなければ、スーパートレーダーとなって何億円も稼ぐ」ということもない、そう覚悟したうえでお金の貯め方や増やし方を選択する必要があります。(50ページより)


ただし謙虚になることはつまらないことではなく、むしろ謙虚な人ほどプラスになる部分もあるのだと著者。たとえば投資においては「無理なリスクを取らないこと」ができるため、相場が大きく下がったときなどでも資産をきちんと守ることが可能。年収がまだ低いため余裕はないとはいえ、少額でも毎月確実に積み立て預金を行う人は「貯まる人」だそうですが、これは「ある日突然年収が2倍になることはない」と自覚しているからこそできること。地道に謙虚に積み立てを行った人は、最終的には大きな資産を確保し、経済的に余裕を持った人生を歩むことができるわけです。

つまり「貯まる人」は特別なことをしているわけではなく、誰でもできる当たり前のことをしっかりやっているだけ。一方「なくなる人」はつい、お金を貯めたり増やしたりする特別なテクニックがあるのではないかと考えてしまいがち。しかし、お金を貯めたいなら普通のことをするだけでよく、むしろ普通のレベルに自分が行き着くようにすることが大切だといいます。(48ページより)


年金に対する考え方

マスコミの報道で「国の年金は破綻する」という話題をよく見ますが、「なくなる人」はそれを真に受け、「年金制度は破綻する」と考えて文句をいうのだそうです。もし破綻するなら、老後の25年分くらいの生活費を貯金しなければならないでしょう。総務省によれば、いまの年金生活者(夫婦)でも毎月27.2万円がかかっているのだとか。ならば単純計算でも、25年をかければ8160万円ということになります。しかし、そうでありながら、「自分で8000万円は貯めなくては」とがんばっている人はほとんどいないと著者。考えと行動が一致していないわけです。

一方、現実の落としどころを理解しているのが「貯まる人」。つまり、「年金制度は破綻はしない」が、「年金水準はいまよりも下がる」と認識しているということです。現在の夫婦モデルでは月22.2万円程度ですが、「マクロ経済スライド」という政策(物価が上がったとき、年金額を微増に留めることで実質的マイナスを行う仕組み)により約15%は引き下げられる見込みだそうです。だとすれば、18.8万円相当。現在の年金生活者の家計と比較すれば毎月8.4万円が不足することになり、それを25年と考えれば2520万円ということになります。これなら、退職金を含めた現実的な努力で対応可能な数字。こういう現実的な数字を見据え、老後のための資産形成にも取り組むのが「貯まる人」の発想法だということです。


マスコミが喧伝するほど国の年金制度は破綻の危機には瀕していません。(中略)20年もすれば高齢者の比率はいったん落ち着きますし、やはり破綻の心配はほとんどないのです。(67ページより)


むしろ「なくなる人」に、文句はいっても行動しない傾向があることの方が問題。一方、実行できる人である「貯まる人」は、現実的にできる範囲で行動を実行に移すもの。老後が心配だとはいえ過剰に心配するわけではなく、本当に必要と考えられる範囲で将来に備えるということです。(64ページより)


インフレとの向き合い方

「貯まる人」は、インフレを先取りする。対して「なくなる人」は、コツコツ貯金し続ける。この項に、著者はそう記しています。どういうことなのでしょうか?

日本ではほぼ20年にわたってモノの値段が上がらない状態(デフレ)が続きましたが、そんななかでもモノの値段は上がりはじめています。モノの値段が上がるということは、労働の値段が上がることともリンクしているので、「値上げ=賃上げ」がバランスよく保たれていれば、生活にはあまり影響が出ないと考えることも可能。しかしこれは、「なくなる人」の発想なのだそうです。それに対して「貯まる人」は、「老後のやりくり」と「保有資産の目減り」の影響を気にしてインフレについて考えるもの。

インフレが怖いのは、老後。いまある財産、定額預金の残高などがインフレに伴って目減りしていくことへの対策をしなければ、老後に買えるモノが少なくなってしまうことになります。国の年金がマクロ経済スライドである以上、年金額はインフレするほど目減りしていくということです。また、現役時代にも注意が必要。なぜなら、もしお金を貯めていたとしてもインフレによって目減りしてしまうから。そしてこうした時代には、インフレに負けない資産管理として、リスク資産も一部保有しておく必要があるということです。

不動産や株式などはインフレや経済の回復に早く反応するため、定期預金と合わせてバランスよく保有しておけば、「インフレに早く対応する資産と、ゆっくり対応する資産」の双方を保有することが可能に。これは同時に、「リスクはあるが高利回りが期待できる資産と、利回りは低いが安全性の高い資産」をバランスよく保有することにもつながっているそうです。つまり資産の一部分について運用を行うことが、有効なデフレ対応策となっていくわけです。


「なくなる人」の共通点として、中長期的ビジョンの不足があげられますが、インフレへの対応はまさに、中長期的目線が必要なテーマです。(70ページより)


「貯まる人」は、お金についてバランス感覚がある人。一般的には自分の財産の半分程度、投資経験が浅いうちは数割程度の投資比率にとどめつつ、インフレにも対応できる体制を整えておくべきだといいます。(68ページより)



「貯まる人」と「なくなる人」を並列させ、そこに生まれる差の「根拠」を明示しているところが本書の強み。理にかなっているからこそ、強い説得力が生まれているわけです。


(印南敦史)