デキない男のホワイトデー戦略はなぜ凡庸か

ホワイトデーの対応の仕方で、マーケティング力がわかります(イラスト:春次/PIXTA
こんにちは。はたらく女性のかていきょうし、タブタカヒロです。

今日は3月14日ホワイトデー。2月14日バレンタインデーにチョコをもらった男性が、女性にお返しをする1日です。

ホワイトデーのお返し戦略からわかること

この連載の過去記事は こちら
1カ月前の記事で、バレンタインデーにチョコを「いっぱいもらいたい・モテたいビーム」を出す男がうっとうしいと書きました。彼らはホワイトデーになると、職場でもらった義理チョコへのお返しに張り切ります。

モテたいビーム男は少しでもセンスの良いホワイトデーのお返しをと頑張りますが、ほかの男性も同じように頑張るので、そんなに違いを出せずイマイチ抜け出せません。モテたいビーム男のホワイトデーお返し戦略が大成功になることは少ないようです。

ホワイトデー戦略がイマイチな男子を観察すると、仕事もデキないことが多いようです。特にビジネスにおける「戦略力」〜マーケティングが残念。逆に仕事がデキる男を観察してみると、ホワイトデー戦略に驚きやアイデアが含まれていて、マーケティング力の高さがうかがえます。中でもいちばん驚かされたのは、「ホワイトデーにお返ししない」という戦略でした。

デキない男がお返し企画に張り切る中、あるデキる男がとった「お返ししない戦略」とは? 今回はホワイトデーの返し方でわかる、デキない男とデキる男のマーケティング力について考えます。

デキない男のホワイトデー戦略とは、一言で言うと良い品を良いサービス(渡し方)でお届けする「顧客満足度」向上マーケティング。最近人気でセンスの良いギフトと、最近はやっているサプライズな渡し方を調べて、最も相手に喜ばれそうな「最適解」のお返し方法を選びます。

一見、素敵なホワイトデーの返し方に思えますが、問題はほかの大多数の男性も同じ戦略を取っていることです。その他大勢と同じ軸で考えるので、インパクトや面白みに欠けるので抜きん出ることが難しい。漠然と「顧客満足度」を目指す企業の、ぱっとしないマーケティングに似ています。

顧客満足度」ではなく「顧客の創造」
冒頭にご紹介した、デキる男性にホワイトデーの返し方を聞いた時は、驚かされました。

「僕は、ホワイトデーにお返ししません」。


よく話を聞くと、バレンタインデーにチョコをもらって何も返さないという意味ではありません。バレンタインデーのタイミングで、お世話になっている女性に彼からチョコやギフトを渡すのだそうです。バレンタインデーに先にお渡しするので、ホワイトデーに返すことはないという意味でした。

「日本のバレンタインデーは女性から男性にチョコ贈るのが儀式化しているけれど、それってどうかな……と思って。男性から女性に感謝の気持ちを贈ってもいいんじゃないかと。1人で世間に抵抗しています(笑)」という彼の話を聞いて、マーケティングの重要な理論を思い出しました。

かのピーター・ドラッカーが「事業の目的はただ一つ、顧客の創造である」と述べたように、マーケティングの本質は「顧客満足度」ではなく「顧客の創造」。新しいマーケットをつくりあげることと言われています。

新しい顧客の創造には、自分の立ち位置を際立たせるくらいのマーケティングが必要です。そのためには、既存のマーケットを否定して、既存のルールを変えた「アンチテーゼ(反対命題)」を打ち出すくらいのことができないといけない。

デキない男は最適解だけど際立たない「顧客満足度」を計算して、デキる男はアンチテーゼで際立たせた「顧客の創造」を追求する。ホワイトデー・マーケティングで求めるものの違いが、デキない男とデキる男を見分けるポイントと言えます。

デキない男の3Aステップ
デキない男とデキる男のマーケティングの違いをさらに観察すると、方法論の違いに気付かされます。デキない男の顧客満足度マーケティングは、MBAの授業やビジネス本が教える方法論を表面的になぞる傾向にあるようです。彼らは次のような3つのAのステップを踏みます。


•Assumption(前提条件)

まずは、マーケティング戦略を立てる前提条件を確認します。たとえば「ホワイトデーは男性から女性へのお返しをする日」といった前提です。

•Analysis(分析〜情報収集と分析)

次に、情報やデータを収集して分析。たとえば市場(女性)に今流行っているギフトとかサプライズの情報を調べます。

Answer(コタエ〜打ち手)

そして、前提条件と分析から打ち手を導く。

一見まっとうな方法論に見えますが、このステップで導けるのはクイズの回答みたいに正論な「正解」、つまり誰もが気づきそうなコタエ。デキない男の顧客満足度マーケティングは、代わり映えしないテストの回答みたいな表面的な打ち手に終わってしまうことが特徴です。

デキる人を観察していると、彼らは表面的な方法論から一歩踏み出したお作法を使っています。デキる人のマーケティングは、次のABCの3ステップです。


•Ambitious (野心)

まず前提条件に対して問題意識を持って、前提条件を変えてやろうという野心を抱きます。たとえば「女が男にチョコを渡し、1カ月後に男が女に返すのが儀式化しちゃった日本のバレンタインデーとホワイトデーってどうなの?」という野心です。

•Bold(大胆)

次に業界の常識を洗い出して、常識を覆したらどうなる? と大胆に考える。「逆に、バレンタインデーに男から女にチョコを渡したら、どうなる?」という大探索です。

•Crazy(「クレイジー」)

そして1人でもその常識に立ち向かうという、一見「クレイジー」な行動に出る。「1人で日本のバレンタインデーを変える抵抗しています」はクレイジーな行動のひとつです。

1人でも常識を変えるために立ち向かい、常識を変えるまで行動し続ける。「クレイジー」さというのは、実は、立ち位置を際立たせ顧客の共感を呼びやすくなるマーケティングの成功条件と言えます。

マーケティングのお手本はココ・シャネル
日本男子中心だった日本のビジネス界は、概してマーケティング下手でした。前提条件や成功体験から一歩踏み出すことがデキないことが、その原因とよく言われています。日本のバレンタインデーとホワイトデーのような儀式的なイベントの振る舞い方で、男のマーケティング力を見分けることができると思います。

最後に、Ambitious、Bold、Crazyな顧客創造マーケティングを実践した1人の女性の言葉をご紹介します。みなさん、素敵なホワイトデーを。

みんな、私の着ているものを見て笑ったわ。でもそれが私の成功の鍵。 みんなと同じ格好をしなかったからよ。