「キラキラ女子」を採用する企業の秘めた思惑

今回は連載第3回で取り上げた、有名ベンチャー企業のマネジャーに改めてインタビュー取材した内容を紹介したい。前回の取材の際、マネジャーは「キラキラ女子」という言葉を使っていた。

 筆者は、この言葉に関心を持った。マネジャーの言う「キラキラ女子」とは、シンプルに言えば、高学歴で優秀な学生を採用するために、会社の広告塔として利用されやすいタイプの女性社員のことだ。彼女たちを分析することで、新卒採用のあり方、女性の働き方、そして企業が抱える「学歴病」に関する実態が浮き彫りになるのではないか、と考えたからだ。実に多くの問題意識を提起する事例だと、筆者は思う。

 話を聞いたマネジャーを仮にA氏とする。A氏は現在、営業本部に勤務する40代前半の男性。会社は正社員数が約1000人。マネジャーは7~10年ほど前、大卒の新規採用をするグループ(5~10人)の一員だった。その頃、他のメジャーなベンチャー企業の採用担当者らと知り合う。情報交換をするなか、「キラキラ女子」の存在を知ったようだ。あなたはA氏の話から何を感じ取るだろうか。

目がぱっちりでメイクばっちり
社員の憧れ「キラキラ女子」とは?
――連載第3回の取材時には、「キラキラ女子」という言葉を使っていました。その意味するものを教えてください。そもそも「キラキラ女子」が多いのはどんな企業ですか。

「キラキラ女子」が多い企業の採用には、どんな思惑があるのか?
A氏(以下同) ほとんどの人は察しがつくと思います。「ああ、あの会社の女性社員たちか……」と。その想像通りですよ。

 その会社(B社)のトップは、十数年前はスキャンダルを抱え込んでいたようでしたが、実はめちゃくちゃ硬派な人。仕事一筋ですからね。だから、1990年代後半に創業し、数年経った頃までは平凡な学生を採用していたのです。

 ところが、十数年前からその方針が変わります。ある有名な採用コンサルタントとタイアップし、新卒採用をするようになったのです。

 女子大生を採用するときは、大学でいえば、慶應、立教、青学、学習院、東京女子、日本女子、大妻女子などの学生を次々と狙います。そのほとんどが、見た目はキレイ。こうした「キラキラ女子」は、入社後は女性向け雑誌の表紙のモデルみたいな雰囲気を醸し出しながら働く。お目めぱっちりで、お化粧ばっちり、洒落たお洋服も着ています、仕事もバリバリして、恋もしちゃいます、みたいな雰囲気で……。

 しかし、その大半が学生時代の頃からの慣れ合いの男性と30代半ばまでに結婚し、どんどん辞めていく。一生働くような考えもスキルも技能もないから……。

――「キラキラ女子」の採用効果はどれほどあるのでしょうか。

「キラキラ女子」の実態について語ってくれた、有名ベンチャー企業マネジャーのA氏
 社員たちから聞いた限りでは、10年ほど前から、男子学生のエントリー者数が爆発的に増えたみたいですね。採用戦略としては、大成功でしょう。コンサルの高笑いが聞こえてくるようです。当時の人事担当役員はめちゃくちゃ優秀。様々な意味で……。こういう人たちがタッグを組めば、世間知らずの学生をゲットするなんて簡単でしょう。

 特に、「キラキラ女子予備軍」の学生は安全パイ。会社の内情も実情も知らないし、職業意識も希薄。もともとは優秀な女性たちなのですが、会社に入ってからは「なんとなく輝いていたい」というレベルの発想しかないのですから。明確な意志がないのが大きなウリなのです。なんとなく昭和の臭いがして、優秀な男子学生や男性社員にウケるのでしょう。つまり、男性の理想通りになる女性という感じかな。

優秀な学生を惹きつける広告塔
女性社員の6割が「キラキラ」の会社も
――言い方は悪いかもしれませんが、つまり、女性を「広告塔」として扱うわけですね。

 ベンチャーは大企業と同じことをしたところで、勝てるわけがない。こういう採用戦略をとるのも、ある程度は止むを得ないと思います。

 B社は今や、女性社員の6割がキラキラ女子。10年ほど前から、この路線のマネをして、キラキラ女子を雇うベンチャーが増えました。だけど、ポータルサイトでぐんぐん業績を伸ばした競合他社でも、「キラキラ女子」は女性社員のうちのテンパー(1割)程度に見えます。6割がいかに多いか、でしょう……。

 B社の場合、「残りの4割の女性が会社を支えている」と社員たちから聞きます。4割の女性たちは、どこの会社にもいるタイプ。聞く限りでは、仕事や役職、給料や賞与も、多少は「キラキラ女子」よりは上をいく。そこが、会社のクレバーなところです。女性社員を「グループ分け」しているわけですよ。

「キラキラ女子」はキレイだけど、仕事があまりできない。彼女たちには、メディアに出てもらうことで貢献してもらうのです。だから、「キラキラ手当」をもらう……(笑)。それはお金ではなく、“キラキラ”という待遇を受けることができるのです。その多くは、30代半ばで、「定年」を迎えます。それより上の年齢のキラキラ女子を、私は社内で見たことがありませんね。

――そもそも、採用戦線で、「キラキラ女子」はどんな働きをするのでしょうか。

 今は景気が回復してきたこともあり、多くのベンチャーは新卒採用に苦戦しています。少子化の影響もあるでしょう。そのなかで、学生の意識も変わっています。15~20年前のように、「セミナーで経営者の話を聞きたい」なんて思っていません。もっと社内の内情を暴露した「ホンネのトーク」を聞きたいのです。

 そんなときに、就活セミナーなどに登場するのが「キラキラ女子」。30代半ばまでの、モデルみたいな女性たちが颯爽とステージに現れます。そんな様子を新卒採用のウェブサイトやフェイスブックなどで流します。
 
 最近私は、ベンチャーの中で業績が上位30位以内に入るC社の採用プロモーションに、プランナーとして関わりました。会社の1階ロビーで、29歳の「キラキラ女子」を撮影しました。彼女は青学出身。慣れていますよね。モデルのようなポーズをすかさず取ります……(笑)。

 で、すぐ前に受付の女性がいるわけです。20代前半かな……。めちゃくちゃ冷ややかな視線をこちらに送ってきました。正社員ではなく、派遣社員だったのかもしれません。そんな嫉妬心もあるのかな、受付の女性も十分知的でキレイだったのですが……。「格差はこんなところにもあるのか」と思いましたね。「キラキラ女子」誕生の舞台裏は、いわばこんなもの。学生には想像もつかないだろうね。

高学歴で優秀な女性たちは
「キラキラ化」で不幸になる
――それにしても、会社にとって彼女たちは、「ただキレイであればいい」のですか。

 いや、そうではないでしょう。ベンチャーの多くは社内の体制も、事業戦略も未熟。中身がないからこそ、せめて表面上は魅力を醸し出そうとする。それが「キラキラ女子」。ただし、「仕事をする現場を知っているぞ」という雰囲気も醸し出さないといけない。

 いつの時代も、ベンチャーに憧れる学生の9割は単なる憧れ系。うちの会社にエントリーするのも、ほとんどはそんな感じに見えます。だから、人事としては採用のときにフィルターをかけるわけです。それが、ビジネスの現場を語れる「キラキラ女子」。20代後半~30代前半になれば、現場のことを、厳しさも含めてマジで語れるじゃないですか。リアリティを伴った説得力はある。

 この時点で、憧れ系の学生は消えていく。反面、まじめな男子学生はぐいぐいと惹きこまれるし、ひたむきな女子学生は「あの女の人、カッコいい~」とエントリーする。結果として、一定以上の優秀な学生を採用できるわけです。

――たとえば、東大や京大卒の超優秀な女性が「キラキラ女子」になることもあるのですか。あまりイメージが湧きませんが……。

 東大や京大卒で「キラキラ女子予備軍」としてベンチャーに入っても、不幸になるだけだと思います。それだけ優秀だと間違いなく、バカバカしく見えるはず。そんな意識の高い女性は逆に排除されます。世の中には「東大・京大卒の女性を採用している。俺は偉いよね」と、自分を礼賛する社長もいますけどね……。特に、渋谷や赤坂のベンチャーの30代のトップ……。圧倒的に男性経営者が多い。ひとことで言って、「チャラい」ですよね。

 一般論ですが、劣等感を持つ男性が、優秀な女性に対して持つひがみは独得。「学力は劣るだろうけど賢さでは俺が上!」と周囲に思ってもらいたいみたい(笑)。こういうベンチャーでは、高い意識を持った女性たちは上層部から「ウザい」と思われてしまう。

 実は、私が今勤務する会社にも、京大の大学院卒の女性がいます。正直、思いますね。「京大の大学院まで出て、こんな会社に来るのか?」と――。まじめな体育会系女子。はじめから「キラキラ女子」枠ではないようですが。

「キラキラ女子」に嫌気がさして
転職しても同じことを繰り返す?
――「キラキラ女子」であり続けることに抵抗を感じ、会社を辞める女性たちは、その後、他の会社で活躍できるものなのでしょうか。

「キラキラ女子」をすることに嫌気がさして退職し、次に行ったのがベンチャーならば、そこでも「キラキラ女子」にされる可能性が高いでしょう。そもそも、優秀な女性社員のようには仕事ができないし、意識も高くないのですから。結局、キラキラになるしか、生きていけない。

 次の職場でも、周囲から冷めた目で見られ始めると、「ウザい存在」になり、辞めていかざるを得ないでしょう。それを繰り返すとよくありません。20~30代半ばのころ、しかも非管理職のまま、転々とベンチャーを渡り歩く女性の将来は明るくない。私も、そんな女性を数人知っています。妙に達観し、30代半ばでありながら、人生に疲れたというオーラを漂わせます。

「キラキラ女子」のときに自我が芽生えると、気の毒な結末になることも多い。結婚し、育児というフェーズに移ったとき、煮え切らない気持ちになる人もいるでしょう。年をとったけれど何のスキルも技能もない、ということになりかねないのです。

――そもそもベンチャーでは、なぜ「キラキラ女子」が多いのでしょうか。

 確かにベンチャーでは、「キラキラ女子」が目立ちますね。特に多いのは、代理店ビジネスからスタートした会社。前述のB社もC社も、ルーツを辿れば広告代理店。ベンチャーの6~7割はこの手のタイプでしょう。代理店は、大きなビジネスモデルがあり、それで稼ぐ既存の会社があり、その支部や営業所みたいなもの。そこから枝分かれして、独自路線を進むこともあるけど、ルーツは代理店であるケースが多い。

 このような会社の多くは、アドベンチャーという冒険スピリットがない。要は、フランチャインズでしかない。ある意味で、コンビニエンスストアと同じ。こういうベンチャーのほとんどは、「1・100」というビジネスモデルです。ゼロから何かを始めるのではなく、1から100を目指す。創業期である以上、手元に資金がない。短い期間で、グーンと1から10、20、30、そして100へ辿り着かないといけないのです。

 その起爆剤の1つが「キラキラ女子」。つまり「毛針」みたいなものですよ。たとえば、事務処理能力に長けた若い人材が必要になる。そこそこの難易度の大学を出ていると、事務処理能力は高い。そんな学生を誘うために前線に駆り出されるのが「キラキラ女子」。要は、ベンチャー魂を失った会社の経営陣の思考の行き詰まりをカモフラ―ジュするのが、彼女たちと言えるのでは。ボトルネックから生まれた存在とも言えるのでしょうね。

「ゼロ・100」の実力派企業には
「キラキラ女子」が少ない
――とはいえ、全てのベンチャーが「キラキラ女子」に頼っているわけではないでしょう。「キラキラ女子」が少ないベンチャーもあるのでしょうか。

 ゼロから100を目指す「ゼロ・100」のベンチャーには、「キラキラ女子」が少ない。ゼロから切り拓くことができるサービスや商品、製品、それらをつくる技術やノウハウを持っているから、注目を浴びるわけです。これが、本来のベンチャーの姿なのです。そこを採用プロモーションで上手く伝えると、本当の意味で賢い学生がエントリーします。ビジネスモデルを見抜いているのでしょうね。学歴云々ではなく、ビジネスセンス抜群の学生たちです。これこそが、優れ者なのです。

 うちの会社も、かろうじてこの類に入るのだと思います。だから、(前述のような)京大院卒の女性もエントリーしたのかな……。うちは、「キラキラ女子」よりも「体育会系女子」が多い。ゼロから短い期間で100を目指すから、こういう人材を集めないと……。

 日本のベンチャーは、ここ30~40年で「ゼロ・100」が減り、「1・100」のビジネスモデルを持つ会社が爆発的に増えました。国内の市場が飽和し、ゼロから何かを生み出すことが難しくなったからだと思います。何よりも「あの会社」の存在が大きいでしょう。1980年代に大ブレイクした会社ですが、その代理店にも「キラキラ女子」は多いですよ。

「キラキラ女子」はベンチャー魂を
失った企業を象徴する存在なのか?
――今後企業は、「キラキラ女子」をどのように捉え、活用していけばよいのでしょうか。

 少なくとも、増やすべきではないでしょう。もともと優秀な女性が多いのだから、30代半ばで「定年」では気の毒ですよ。打開策を考える際、1つのヒントになる話があります。

 (前述の)カリスマ経営者のもとで代理店を営んでいた人がその後、1990年代後半から2005年にかけて独立して大ブレイクし、あっという間に上場しました。この会社には、実は「キラキラ女子」は少ない。同じビジネスモデルで、同じ枠組み、フレームワークの中にいながら、なぜ、そんなことができたのか……。業態は同じでも、これまでと同じことをしない考え方や理念をつくったからです。猛烈に考え抜いて……。

 この会社のトップは、自分で考えたわけではない。「ゼロ・100」のビジネスモデルを隅々まで知り尽くしている人をハンティングし、そのストーリーをコンセプトにまとめ直したのです。「よその会社で儲かっているから、うちもやろう!」と進めるのは、「1・100」の発想です。このビジネスモデルが上手く回り出すと、コンセプトが必要になるのです。コンセプトがないと、ビジネスとして広がりません。「何のためにこれをしているか」「これをこんな具合にして世に送り出している」といったパッケージが大切なのです。

 つまりベンチャーは、本質的な価値を見出し、つくることが必要なのですが、それには相当な経験、場数、嗅覚、センスなどが求められます。「ゼロ・100」のビジネスモデルを隅々まで知り尽くしている人でないと、無理でしょう。上場した会社のトップは、そこに目を付けたのです。それで、新たな「ゼロ・100」の路線に切り替えることができて、注目を浴び、エントリー者数も増えたのです。このステージになると、学歴ではなく、本当にビジネスセンスのある学生をゲットできるのです。

「キラキラ女子」は、ベンチャー魂を失った会社の思考の行き詰まりをカモフラ―ジュするためのものと、私には思えてなりません。このことを忘れないようにすべきだと思います。