事実!できる子は「遊びの質」が優れている

デジタルゲーム機を持たせていませんが、学校で話についていけなくなってしまうでしょうか(写真 :HiroS_photo / PIXTA
小学校低学年から高学年、そして中学生へ……。周囲に私学を受験する子も増える中で、わが子の成績や先々の進路がまったく気にならない親はいないだろう。どうすれば少しでもいい点が取れ、より上位の学校に進学できるのか。そもそも子どもにやる気を起こさせるには?
約25年にわたり学習塾を運営し、3000人以上の子どもを指導、成績向上に導いてきた石田勝紀氏は「心・体・頭のしつけ」をすることが重要と語ります。この連載では石田先生の元に寄せられた親たちのお悩みに答えつつ、ぐんぐん伸びる子への育て方について考えていきます。 
※石田勝紀先生へのご相談は こちらから
【質問】


この連載の過去記事はこちら
現在、小学校2年と5年の男の子を持つ母親です。2人とも男の子ということもあり、外で遊ぶことが好きです。特に下の子は生き物が好きで、友だちとよく公園に行っています。今日はトカゲを捕まえたとか、秘密基地を作ったとか、楽しそうに話をしてくれます。わが家はデジタルのゲーム機を持たせていません。友だちと遊ぶときに、そのようなゲームを貸してもらってやるのはよいことにしていますが、自宅には機器がないため、2人とも球技や、公園での遊びが中心です。
そこでご相談なのですが、日々このような遊びをしていて、ゲームの話に学校でついていけなくなることはないのでしょうか。今のところ子どもたちは強い不満は言っていませんが、親の方針のせいで学校での友人関係に支障があってもいけないと気になります。
また、2人とも習い事はしていますが、いわゆるお勉強のための塾へは行っていませんが、いつか勉強についていけなくなったりするのではないかと心配しています(中学受験は考えていません)。わが家はこれが正しいという方針でやっていますが、先生のご経験から、何かアドバイスを頂けましたら幸いです。(仮名:高橋)
【石田先生の回答】

遊ぶことでさまざまな力が備わる
お便りありがとうございます。高橋さんのお子さんは外遊びをたくさんする、とても有意義な子ども時代を送っていますね。とてもすばらしいことだと思います。子どもの頃は本来、そうあるべきではないかと私も考えています。

ただし、アニメやゲームといった周囲の子どもたちの話題についていけなくなるのではないかという心配をしてしまうのも当然のことと思います。しかしそれについては、私は杞憂に終わるのではないかと思います。なぜなら、高橋さんのお子さんのような遊びをしている子どもは、そうした懸念を乗り越えるだけの「人間力(人の気持ちがわかる力)」と「免疫力(逆境にあっても乗り越える力)」が備わっていくと思うからです。

こういう言葉があります。

「できる子は、実はよく遊んでいる」

今まで身の周りで、「遊んでいる姿をよく見るのに、なぜかあの子はよく勉強ができる」という子はいませんでしたか。またビジネスの世界でも、「よく遊んでいる(この場合レジャーや旅行、趣味の活動など)のに、仕事がよくできる」人を見かけませんか?

発達心理学の研究でも、難関大学に合格した子を持つ保護者は、子どもが小さい頃に「思いっきり遊ばせる」「好きなことに集中して取り組ませる」「自発性を大切にした」ということが統計として出ているようです。

ぐんぐん伸びる子には共通項がある!
しかし、ただ単純に遊んでいれば、勉強ができるということでは勿論ありません。ただ遊んでいるのでいいなら、子どもはいつも何かしら遊んでいるので、誰もが勉強ができるようになっているはずですね。しかし「遊んでばかりいないで、勉強をしなさい!」という言葉が昔から、多くの親御さんの口癖になっています。今でも「子どもが勉強しなくて困っている」という家庭は後を絶ちません。

私はこれまで塾を経営する中で多くの生徒を指導してきましたが、学校と違い、長期間の成長プロセスを見ることができました。小学生のときに入塾した生徒がその後、中学でも在籍し、その後どのような大学へ進学していったのかということまで見ています。そこからわかった「ぐんぐん伸びる子の共通項」がありますので、今回ご紹介したいと思います。

【ぐんぐん伸びる子の共通項】
・小学生の頃に、いわゆるガリ勉をしていない
・遊びはデジタルよりアナログが多い(デジタルな遊びもやってはいるが、中毒にまではなっていない)
・ときに自然と触れ合う遊びをしている
・習い事をしていることもあるが、やりすぎていない(数を絞り込んでいる、また、子どもの自主性を重んじている)
このようなお話をしても、どうしても、「遊び=勉強の敵」という印象を一般的には持たれてしまいます。いったいなぜなのでしょう? 私は、「遊び」とは次の5つの要素が2つ以上組み合わさったものであると考えています。

(1)創造的、想像的である
(2)自然と触れ合っている
(3)集団的である(通信ゲームなど、電子的ネットワークを介するものは含まない)
(4)アナログである
(5)肉体的または精神的充足感がある
こういった遊びをすると、どうなるかといいますと、次のようなことが無意識のうちに“学び”として備わってくるのです。

無意識のうちに“学び”へ変化する
【普遍的基礎力】(いつでもどこでも通用する「根本の力」という意味。私の造語です)
(1)想像力→イメージすることが自然と訓練される
(2)創造力→ゼロから新しいものを作り上げる。または新しいルールを自ら作る
(3)積極性→遊びへの参加は前向きである。後ろ向きに遊ぶ子はいない
(4)交渉術→問題があったときに口喧嘩をする。これはある種の交渉
(5)協調性→ひとりで遊ぶこともあるが、集団で遊ぶ場合は、これが育まれる
(6)挑戦意欲(探究心)→子どもは、遊んでいるうちに、さらに遊びの水準を上げる傾向がある
(7)集中力→遊びには夢中になれる。集中力の訓練が自然となされる
(8)心身の健康→いうまでもない
まだまだこれ以上あるかもしれませんが、あえて言語化すると以上のようになります。大人でも、よく遊び、仕事のできる人は、「遊びから得られたヒントがビジネスで応用されることが多い」といいます。これは大変興味深いことです。上記の8つは、ビジネスでも必要とされるエッセンスであることを考えると、“遊び”がいかに重要なことであるかおわかりいただけるのではないでしょうか。

このように考えると、遊びには「能力開発」という側面もあるのです。たとえば、高橋さんのお子さんのように秘密基地づくりをしたり、野山で自然と触れた遊びをしたりしているかどうか。また鬼ごっこやかくれんぼ、お人形さん遊びや昔からの伝統的遊びをやっているかどうか。

伝統的な遊びには、それだけ長く続くだけのよさがなんらかあったということです。遊びを通じて、トラブルからの学びであったり、人間関係の複雑さを学んだりもしていたのです。

では、このような遊びばかりをしていて、勉強についていけるのかどうかという問題です。先ほど、述べましたように、今後生きていくうえで非常に貴重な「普遍的基礎力」がついていく「遊び」ですが、では、勉強はまったくしなくていいのかというと、もちろんそれとこれとは別です。やはり、勉強はできないよりはできたほうがいいのです。子どもの自信にもつながります。では、高橋さんのようなお子さんで、中学受験を考えていない子はどうすればいいでしょうか。

この27年間、私は数多くの小中学生を見てきましたが、この10年で特に顕著なのが、「小学校段階で基礎ができていないために、中学1年の授業にほとんどついていけない生徒が明らかに増えている」という実態です。もっと正確に言えば、勉強ができる子とできない子の格差が年々大きくなっているという事実なのです。これは統計でも出ていることです。

小学校のときに基礎・基本がしっかり身についていれば、公立の中学校の勉強はスムーズに入っていけるのですが、掛け算の九九もあやしいという子もたくさんいます。それではもはや中学校の授業は成立しないことでしょう。もちろん、小学校の授業も重要ですが、集団で授業を行っている以上、すべての児童を個別で見ることは現実的には難しいことです。ですから、家庭においても最低限のフォローはしておかなくてはなりません。

「朝飯前」にドリル学習が効果的

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私がいつも推奨しているのは、ドリル学習です。できれば朝、学校へ行く前に30分でやってしまう習慣をつけるとよいでしょう。いわゆる「朝飯前」というものです。

朝飯前ですから、多少早く起きなくてはなりません。ということは、夜は早く寝なくてはなりません。正しい生活習慣も身につきます。そしてドリルは、最低限、計算ドリル、漢字ドリルを1枚ずつぐらいはやりたいものです。運動における「筋トレ」みたいなものです。(習慣化が難しい場合は、「子ども手帳」を使って習慣化させてみて下さい。また、前回記事で中学校になったらドリル学習のみでは足りないという記事を書いていますが、小学生のうちのドリル学習は非常に有効です)

遊びで「普遍的基礎力」をつけ、ドリルで基礎学力を身に着けていくことで、その後の中学、高校への準備ができると思っています。もちろん、それ以上の勉強をすることも問題ありませんが、基礎・基本をコツコツと地道にやることが、勉強ができるようになる「王道」です。是非、高橋さんのお子さんは今の生活のよさ、外遊び主体の生活は続けつつ、勉強など気になる点については、このように補強されてみてはいかがでしょうか。きっと、ぐんぐん伸びる子になっていくでしょう。